若い人がいきなり便利なものを...ぜひ使って!

いきなり便利!

「若い人がいきなり便利なものを使い始めるとダメになる」

ということがよく言われます。ほとんどの人が確かにそうだと考えるでしょう。

実は自分はそうは考えません。

便利なものをいきなり使い始めてください

と言い切ります。


心配なのは間違った使い方をすることだけ。

そこはしっかりフォローした上で使ってもらう。

便利に慣れたい

なぜそう考えるのか。

逆に便利なものを知らずに育つと、それが便利であることを理解できなくなるから。
便利であると気付かなくなるし、便利であるとわかっても、いざ手を動かそうとすると二の足を踏むことがある。

不便なものから使い始めると、「手」も「思考」も不便なものに合わせた形で凝り固まってしまい、そして人はそこが居心地の良いものと捉えてしまう。要は「クセ」がついちゃったと。

その状態でいざ便利なものを目の前にしたとき...

便利であるがゆえにどうしても必要な習得コスト、これが面倒で仕方ないと感じてしまう。なぜなら、不便な方法でもなんとか乗り切れることを知ってるから。

そもそも今までやってた方法が不便だったと認めたくない。
今までのことを否定したくない、そういう気持ちは誰にでも生まれるもの。今までやってた方法こそが一番効率が良い、とまでは言わないにしても、本能的に避けようとする。

そして、そもそも便利さを疑う。なぜなら、そもそも便利さを享受した経験がないから、全く想像がつかないのである。苦労してきたことと機能を照らし合わせて論理的に便利であることは理解できても、それを使って乗り越えた経験がないから感覚的にはまだ完全に理解はできないないのである(実感が湧かない)。

今までの不便な方法でとりあえず頑張って前に進めることを知ってるから、とにかくその経験が足枷になることがある。

美味しいものを食べないと

昔、バージョン管理システムを全く利用していないチームがありました。そのメンバー誰もがバージョン管理をしたことがなかったのです。一方で、自分はほぼ仕事心がついたころから CVS を使っていました。バージョン管理なしでひたすら実装していくなんてあり得ないと...

バージョン管理システムの提案をしました。

提案技量不足という面も否めませんが、その便利さとメリットはとりあえずは理解はしてくれたようです。でも、導入には至りませんでした。特に理由もありません。なんとなく誰も乗り気じゃなかったのです。導入しないで済むならその方がいいというムード。

新しいものを導入する、これほど障壁の高い行為はありません。

でも、バージョン管理を最初っから使っていた人間からすると、「これ別に新しいものでもなんでもないよ」というところなのです。そこに大きなギャップがあります。

結局、バージョン管理は導入されませんでした。そんな状況なので、バージョン管理に限った話ではなく、随時、手作業しまくりでミスりまくりの開発運用、ただそれでも、何も道具がないにしても、なんとかミスや事故が少なくなるよう、手順の確立やら簡易なスクリプトやらやらやらで工夫し、便利なツールを使った場合に比べれば遥か及びませんが、なんとか無事開発を進めていけるくらいの状態になりました。そして、それをみんな便利だと喜んでくれました。(えーっとぅ...)

バージョン管理システムやその他便利ツールの便利さを享受したことがあるからこそ、何ができると便利と感じるのか思えるのか、その「期待値」がわかって改善が思い付いた。便利さを知らなければ、独自の改善だって思い付かないでしょう。

料理人も、おいしいものを食べなきゃ、おいしいものは作れない

クセ思ったよりもある

これに近い話、至る所の至る領域でたくさんたくさんあります。

よくあるところでは、エクセルで課題管理したり図を書いたり...

頼むから、

「ちゃんと課題管理ツール使ってー、モデリングツール使ってー」

と言いたいところなのですが、既に手も目も頭も凝り固まって、そこから動こうとはなかなかしないのです。

プログラミングも同じですね。一度変なクセがついてしまうと、なかなか矯正することができない。矯正しようとも思わなかったり。そこに明確なポリシーが存在するのであればまだ良いですが、一方で、わかっていながらただ一歩を踏み出せないでいる人もいて。

もちろん、人によっては経験がどうあれ違う結果を生み出すことも。それも良い方向に。確かに自己探求できる人であれば全く問題なし。でも、全員がそういうわけじゃない。

享受の仕方

誤解の無いように書いておくと、もちろん「正しい使い方」で、便利さをしっかり享受することが大事。

例えば、いくらデバッガが便利だからって、エラーメッセージ読む前にデバッガを起動するのは、それは賛成できない。それは根性論でも精神論でもなんでもなし、単純にエラーメッセージやスタックトレースの方がデバッガよりも「便利なツール」だから。

優先度が違うだけ。

// デバッグ手順(スタックトレース重要) | jfluteの日記
http://d.hatena.ne.jp/jflute/20090224

どちらかというと話

ということで、遠慮なく便利なものを使ってもらってOKかなと。厳密にはケースバイケースとも言えますが、少なくとも逆のパターン、

不便に慣れてしまうケースの方を多く見かける

その方が深刻だと。

なので、経験者が自分の苦労を若い人に押し付けようとする気持ち、これもまた抑えたいところ。

「ぜひ同じ苦労をしてもらいたい」

と思えるものもある一方で、それを若い人に強要するのは時代的に無駄なことと考えられるものもたくさんある。その先輩の深層心理で若い人の進化にストップをかけるのは避けたい。

※自分も、本当に気をつけなければね...

便利を知ること

そういうことから若い人には、

若い感受性の高い時期に、確かな便利さをしっかり知ってもらいたい

そして、いざ便利なものがない世界に飛び込んだときに、「しっかりとショック」を受けて、便利なものを提案してその場を改善していくきっかけに、もしくは、知ってる便利さを代わりの方法で導き出すきっかけにもなってくれればと。

そう願いをこめてこのように考えるのです。

【追記: 2021/08/19】永遠の記事?

記事投稿から10年経っても、この記事を紹介する機会がありました。

とある新卒の方、先輩に実際に言われたわけじゃないけれどもネットの声とかで「いきなり便利なもの」プレッシャーを感じてしまっていたようです。

1on1の場で「jfluteさんの意見はどうですか?」って聞かれたので、懐かしいなと思いながらこの記事を紹介しつつお話をさせて頂きました。

ほぼほぼ意見は変わってないのですね。


一方で「その古いものが不便かどうか?」「その新しいものが便利かどうか?」っていう視点は持った上でのことってのはあります。

「その古いもののメリット・デメリットは何だ?」「その新しいもののメリット・デメリットは何だ?」という問いを持ち続けるのが大切でしょう。

そういう意味では、ブログの最初に書いた「心配なのは間違った使い方をすることだけ」ってのが、本当に心底そうだなって改めて思いました。10年前の自分の言葉にハッとさせられましたね笑。

便利だろうなんだろうが、いま使ってるものからどれだけ学べるか?

その姿勢を促すことが大切かもと。


一方で一方で、ネットで情報がたくさん入るようになったことで、現場で何かあったわけじゃないのに「自分自身で悩んじゃう」ってこともあるんだなと感じました。なので、「もはや昔話かなぁ...」って思ってたこのブログも、大切にしたいなと。


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